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Column06.05.2016

愛されて育つこと『ALEXANDRITE』成田美名子・作

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折りに触れて読みたくなる、と言いながら手放して随分たってしまっていた成田美名子・作『ALEXANDRITE』。以前勤めていた事務所にはあったので、たまに開いてはじんわりとツボを衝かれて棚に戻していたのだが、どうやらKindle版が出ている模様。(前に探した時なかったのにな〜)

ごく最近、読み返したくなった箇所はヒロイン、アンブローシアが高校生の時、警察官である父を殉職で失うという回想シーンだ。回想してるのは主人公のアレックス。父親に恵まれなかった(と思い込んでる)アレックスが、何不自由なく育ったアンブローシアに対し「これで少しは苦労を覚えるだろう」と思い見に行くと、彼女は取り乱すこともなく静かに涙を流しているだけだった。「くやしくて悲しいのよ ね、わかる? もうパパになにもしてあげられないんだってことが 悲しいの」自分との違いに打ちのめされるアレックス。いつも何かをしてもらうことばかり考えていた自分を省みるのだった。

正直このシーンは当時、私も高校生で「そんなものかな」という程度だった。今更ながら解るアンブローシアの気持ちは、例え高校生の頃、親を亡くしたとしても共感できただろうか、とは思うが、二十年を超えて届くメッセージがあるということにこの作品の力強さを感じる。

それからもう一つ、アンブローシアを語る周りの大人による「愛されて育った子は強いわ 大丈夫」という言葉。これも当時は解らなかったと思う。

というのも、似たような話(と言って良いものかどうか…)に、盲導犬のパピーウォーカーがあった。盲導犬になるための犬は約10ヶ月、パピーウォーカーの家で愛情たっぷりに育てられる。ということはよく知られていると思うが、私は子どもの頃、それが良く解らなかった。1年近く甘やかされて育って、急に厳しい訓練をされたら、裏切られたって思わないのかな?優しさを知ってる分、辛くないのかな?勿論、今なら充分に解る。甘やかされるのと愛されるのは全然違うこと。愛されて育ったからこそ、人を信じられるからこそ、厳しい訓練にも耐えられるし、人の役に立つ喜びもある。

盲導犬の話とアンブローシアの話が繋がったのは、大人になってからだ。私は決して豊かではないが何不自由なく育ったことにコンプレックスを感じていた。幼い頃から苦労をしていた友人が多かったこともある。一人っ子がまだ珍しい時代、甘やかされたと言われることも少なくなかった。環境に関しては豊かであろうとなかろうと、兄弟が多かろうと少なかろうと、一人として同じであることはないのだから、それが人格を決定づけることはないと思うが、私にも私なりの強さが備わっているのだろうと思えるようにはなったのは、30歳の時に父の全介護を経験したことからだった。

さて、アンブローシアに少しだけ僻んだ恋心を持っていたアレックスも物語の終盤には自分がどれほど愛された存在であったか知ることになる。それはアンブローシアのように何不自由ないものではなかったけど、環境や時代の流れ、大人達の事情も、自分が大人になったことで知る機会を得られ、理解が進んだこともあった。愛される形は一つではないのだ。そうそう、殺処分を免れた犬が災害救助犬になったという話もある。愛を知るのに遅すぎるということはないのかもしれない。

以上のエピソードは物語のほんの小さなエッセンスで、大筋はコロンビア大学の生徒達による青春グラフティだ。(正確には代表作である『CHIPHER』の続編なのだが)日本人留学生ハットリを通してちょっとした留学気分も味わえるし、アレックスが空手と柔道をやっているため日本旅行のシーンもある。時代をしっかり設定している作品だけあって、当時の円高ドル安が垣間見え、今読むからこそ感じることがあったりもする。

Kindle版も手に入れたし、またいくつかの発見があるのだろうなぁと思うと、まだまだ楽しみな作品だ。